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Crush crush 9

誠也の大きな掌が僕の背を撫でる。 「不安とか気になることとか、素直に言えよ。そしたら何か力になれるから。素直さは恋人同士に必要なことだとおれは思う」 「……でも」 「じゃあ柊はおれに隠し事されていいか?」 すぐに首を振った。 僕が悩むようなことなど、全てくだらない。だからそれを話すことはみっともない。そう思う。 だが誠也が何か悩んでいて、それを僕に隠しては嫌だとも思う。どんなに小さなことでも話して欲しい。 「だろ。それに一緒に悩む時間も柊となら幸せそうだしな」 「……本当に阿呆だな」 「ならお前は餓鬼だ」 鼻先を誠也の胸に擦り付ける。息を吸うと汗の匂いが仄かにした。僕を走って追いかけてきてくれたからだ。 誠也は僕の小さな行為に腕の力を強める。 純粋に幸福だと感じられた。 『他にもいるから絶対。柊といるだけで楽しいやつ』 その時、不意に啓二の言葉を思い出す。 僕に価値はない。僕といてもつまらない。 そう思う気持ちはまだ消すことはできない。 だが僕は誠也といるだけで楽しい。 だから啓二のあの言葉を少しは信じてもよいのかもしれない。 自然と顔が綻ぶ。 「おい、柊」 しかし次の瞬間に視界が変わっていた。 困惑して目の前の誠也を見る。 僕は押し倒されていた。今はそのような雰囲気だったろうか。

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