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Crush crush 14

「あとよー……」 誠也は僕から視線を外し、また前に戻す。そしてガリガリと頭を掻いた。 「言わねぇのも微妙だし言っとくと、不良の時は、その……」 「ヤリチンか」 「おまっ、言葉ってものを考えろよ」 「事実なんだろう?」 「そうだけどよ」 僕が何の違和感もなく言葉を放つと、誠也はまたすぐに僕を見てきた。呆れを超えた諦めの感情が向けられた。 過去を知りたい。だが過去は過去と思っているのも変わらない。 今誠也が僕を見ていれば、過去に何人の女を抱こうとどうでもいい。 「お前のそういうところが有難いのかそうじゃねぇのかわかんねぇわ」 「嫉妬されるよりはましなんじゃないか?」 「んー、まあ、そうかもな……。てかそういうところも含めてお前だし、そこもおれは好きだ」 それとも恋人にされる嫉妬なら嬉しい面もあるのだろうか。そこのところはよくわからない。だが嫉妬に狂って何かやらかす相手よりはよいと思う。 そして続いた誠也の告白に僕の口元は弧を描く。 「……僕も誠也の全てが好きだ」 ほんの気まぐれの本音。 誠也は黙って僕を抱き寄せた。直接触れ合う肌が心地よくて、素直に幸福と思えた。 少しずつお互いを曝け出していって。それが悪いことではないと気づいて。 そんな風に誠也と過ごせたら最良なんだろう。 誠也の胸の中で静かに思った。

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