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未来と夢1
夏の勢いも激しさを増す今日この頃。
いよいよ高校最後の夏休みが近づいていた。
勝負の夏。そうなのかもしれない。
夏休みはセンター対策、それと同時に赤本を解き始める時期でもあろう。
それは恐怖を煽ってくるし、不安だって生み出す。
カリカリとシャーペンを走らせる音が静かに響く教室。その空間では考える余裕も十分に作られてしまう。
今は二者面談の最中で、自習の時間だ。
今日の二者面談は志望校を確定させるため、かなり重要なもの。心なしか教室の空気もこわばっている気がする。
誰も無駄口を叩いていないし……。
「亜樹」
「ちょ、颯太」
隣の席の颯太が僕の腰に触れる。
そのつもりがあってもなくても、颯太だと心なしか警戒してしまう。何かするつもりではないかと。
「別に何もしないよ。ぼーっとしてたからどうしたのかなって」
「え、いや……何も。みんな真面目に勉強してるなって」
「二者面中だもんね。緊張があるのかな」
「うん……」
目の前に視線を向ける。
一個前の席が空席だ。その人が帰ってきたら、僕の番。
渡り廊下の端に設置された机。
そこで松田先生と二者面談。
「亜樹も緊張してるんだ」
「大事な局面だし、少しは……。颯太は違かったの?」
「んー……まあ俺は志望校変わらないし、そのまま目指すだけだから」
「そっか、そうだよね」
颯太は曲がらない。ずっと同じところを目指して、まっすぐ進んでいる。
……僕も、そう。僕も変わらない。
未来のために、僕も曲がらない。
「亜樹、あのさ……」
颯太が何かを言いかけたとき、ちょうど教室のドアが開く。もちろん僕の一個前の人だ。
続きを聞いてからでもと思って颯太を見る。
「行ってきなよ。先生が待ってる」
「あ……うん」
颯太がするりと頬を撫でた。
その笑顔は柔らかい。その瞳も柔らかい。どこか作り物みたいだった。
でも手の温かさはいつもの颯太。
「行ってきます……」
「行ってらっしゃい」
颯太の言う事は本当だからと、僕は教室を出た。
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