715 / 961

未来と夢6

「颯太……」 仁くんの腕の隙間から颯太が見える。目の前の仁くんはうんざりしたように息を吐く。 颯太は歩み寄って仁くんの腕をどけた。仁くんはあまり抵抗せずにその身を引いた。 「邪魔が入っちゃったなぁ」 「諦めの悪い人間だね、後輩くんって」 「嫉妬深いのは嫌われますよ」 颯太の鋭い睨みを物ともせず、仁くんは口角を上げる。 「まあ、いいや。亜樹先輩、また今度楽しみましょう」 その視線がちらりと時計に向いてから、仁くんは僕に向かってにこりと笑う。最後の方は颯太を完全に無視していた。 そして身を翻して帰っていく。 「亜樹、大丈夫? 何かされなかった?」 仁くんの態度を颯太は気に留めず、僕の顔を覗き込む。 頭を撫で、頬を撫で、腰を撫で。 それで何か分かるわけでもないだろうに、颯太は探るように触れてくる。 「……そうた」 「わ」 僕は堪らなくなって颯太に抱きついた。ぎゅっとその腰に腕を回す。 条件反射で僕を抱きしめつつ、「どうしたの? 本当に何かされた?」と聞いてくる颯太。僕は恋人の胸の中で首を振る。 違う。違くない。違う、違う。 颯太が好きだ。一緒がいい。違くない。好き。 大好き。違う。 好き。好き。 心の中はぐちゃぐちゃで、今にも張り裂けそう。僕の弱くて小さな心では、受け止めきれないんだ。 でも、やっぱり、これが正しい。 これが、僕と颯太にとって、一番望ましい形なんだ。 「亜樹……」 「……すき、だよ」 「……。俺も。俺も好きだよ」 目の前の安楽だけ。それだけは確かだった。

ともだちにシェアしよう!