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祭り囃子の風が吹く1
左右に真っ直ぐ続く屋台。その間をぎっしり埋める人々。どこからか聞こえる笛や太鼓の音。
僕の目の前にはお祭りが広がっていた。
初めて見るざわめきに、僕の心はあっという間に高揚していった。
「亜樹、気になる屋台ある?」
「えっ、えっとね」
「うん」
「たこ焼き食べてみたいし、射的、もやってみたい……あとりんご飴とか、焼きとうもろこしとか、あ……」
入り口から見える屋台で気になるものを次々言っていく。
だがふと颯太の微笑ましそうな笑顔に気づいてしまう。頬が赤くなっていく。
「可愛いね。全部回ろうか」
「……うんっ」
僕も颯太も甚平や浴衣は着ていない。颯太の浴衣姿はかっこいいだろうなと少し気になってしまう。けれど私服でもお祭りはお祭り。楽しいものは楽しいんだ、きっと。
そして僕と颯太はお祭りの中へ踏み出していく。
「……わ」
入った途端、人の波に飲まれそうになる。人混みのきつさは予想以上で、思わず小さく声を上げてしまった。
これではすぐはぐれてしまいそうだ。
不安になって颯太の服の裾をちょこんと摘む。
颯太を見上げると柔らかく微笑んでいた。
「最初はどこにする?」
颯太は人混みに隠れてさりげなく腰を抱き寄せてくる。
「あっ……んと、たこ焼き」
「うん」
胸の鼓動が速くなる。それでも平静を装って答えると、颯太の嬉しそうな笑顔が降ってきた。
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