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祭り囃子の風が吹く5
慌てて景品台の方を見る。僕の狙っていたものはない。見えない。
「おー、おめでとう!」
颯太が体を起こすのと、屋台の人が拍手をするのが同時だった。
落ちた景品を拾って屋台の人が出てくる。
「はい。これ景品」
「ありがとうございます」
僕と颯太は他のお客さんの邪魔にならないよう少し輪から外れる。
「はい、亜樹」
「……ありがとう」
掌に置かれた景品と颯太を交互に見る。
動物モチーフのペアストラップ。
それが僕の欲しかったもの。可愛いし、ペアだし、僕の好みのど真ん中だった。
「なんでわかったのって顔してる」
「……うん」
「そんなの亜樹が好きだからに決まってるでしょ」
恥ずかしげもなく言ってのける恋人に、僕の方が頬を染める。
「嬉しい?」
「……うん、すごく、嬉しい」
「よかった」
また一つ形に残る思い出が増えた。
掌の中のストラップをそっと握り込んだ。
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