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祭り囃子の風が吹く6
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ぴーとか、どんどんどんとか、和風の音が聞こえてくる。ざわざわと人々の声が入り混じった音も聞こえてくる。
祭りだ。
何を食べよう、何をしよう。わくわく感が胸を駆け上がってくる。
「たかちゃん、すごいね〜」
「毎年思うけど、人の数なかなかだよな」
「うんうん。とりあえず金魚すくい行こ〜」
「はぁ? この歳になってまで?」
顔を歪めるたかちゃんの腕を引いて金魚すくいの屋台へ向かっていく。
たかちゃんと接することにだいぶ慣れてきた。確かにかっこいいと思ってしまうけれど、もはやいつも通りといったところ。隠さなくてもいいと言われたから気持ちも楽だ。
「おじさん、一回分ですー」
「はいはい。そっちの子は?」
「あー、俺も一回分」
「はいよ」
「たかちゃん優し、いたっ」
なんだかんだ付き合ってくれるたかちゃんにからかいの笑みを向けると、背中をぽかっと殴られた。
「もう。たかちゃんより絶対取ってやる」
勝手に対抗心を燃やしておれはポイを握る手に力を入れる。
自由自在に泳いでいる無数の金魚たち。
おれはそのうちの一匹に目を向け、器に近づいてきたところを、すくう。
「あ〜」
ポイは破れなかったものの金魚はすくえなかった。
もう一度狙いを定めて、先よりは素早いつもりでポイを動かす。
軽い水音と共に上がってきたのは、破れたポイのみだ。
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