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祭り囃子の風が吹く7

「たかちゃん、破れちゃったー」 たかちゃんに報告しようと隣を見れば、ちょうど黒い金魚をすくい上げるところだった。勢いとポイを使って、たかちゃんは器に金魚を入れる。 思わず惚れ惚れと眺めてしまった。 「おれも破れた」 それからおれに向かってポイを振る。真ん中に綺麗に穴が空いていた。 でもたかちゃんは一匹すくったのだからすごい。結果的に負けたけど、はっきり言ってもうどうでもよかった。たかちゃん、かっこよかったし。 「二人で一匹だね。袋に入れるよ」 屋台のおじさんがおれやたかちゃんから諸々を受け取る。 そしてすぐに金魚を入れた袋を持ってきた。たかちゃんがお礼を言って、二人で屋台を離れる。 「はい」 「ん〜?」 「やる。マァとミィの仲間にしてやれよ」 「えっ、ほんとほんと?」 「ほんともほんと」 たかちゃんの手から金魚を受け取る。小さい金魚は小さい袋の中でゆらゆら泳いでいた。 おれの家では金魚を二匹飼っている。そのどちらも赤色で、実は黒色の子を仲間入りさせたいと思っていた。たかちゃんは本当におれのことをよくわかっている。 「ありがとう! たかちゃん、大好き」 「……おう」 にっこりとたかちゃんに微笑んでお礼をする。そしてすぐさま黒金魚に視線を戻した。 「よーし、今日から君はムゥだー」 すると隣から溜め息が聞こえる。 ほんのり頬の赤いたかちゃんは、諦めたような、がっかりしたような表情だった。 「本当に命名センスないのな」 「え〜、そんなことないよ」 たかちゃんから放たれた次の一言でおれの唇は尖った。

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