722 / 961
祭り囃子の風が吹く7
「たかちゃん、破れちゃったー」
たかちゃんに報告しようと隣を見れば、ちょうど黒い金魚をすくい上げるところだった。勢いとポイを使って、たかちゃんは器に金魚を入れる。
思わず惚れ惚れと眺めてしまった。
「おれも破れた」
それからおれに向かってポイを振る。真ん中に綺麗に穴が空いていた。
でもたかちゃんは一匹すくったのだからすごい。結果的に負けたけど、はっきり言ってもうどうでもよかった。たかちゃん、かっこよかったし。
「二人で一匹だね。袋に入れるよ」
屋台のおじさんがおれやたかちゃんから諸々を受け取る。
そしてすぐに金魚を入れた袋を持ってきた。たかちゃんがお礼を言って、二人で屋台を離れる。
「はい」
「ん〜?」
「やる。マァとミィの仲間にしてやれよ」
「えっ、ほんとほんと?」
「ほんともほんと」
たかちゃんの手から金魚を受け取る。小さい金魚は小さい袋の中でゆらゆら泳いでいた。
おれの家では金魚を二匹飼っている。そのどちらも赤色で、実は黒色の子を仲間入りさせたいと思っていた。たかちゃんは本当におれのことをよくわかっている。
「ありがとう! たかちゃん、大好き」
「……おう」
にっこりとたかちゃんに微笑んでお礼をする。そしてすぐさま黒金魚に視線を戻した。
「よーし、今日から君はムゥだー」
すると隣から溜め息が聞こえる。
ほんのり頬の赤いたかちゃんは、諦めたような、がっかりしたような表情だった。
「本当に命名センスないのな」
「え〜、そんなことないよ」
たかちゃんから放たれた次の一言でおれの唇は尖った。
ともだちにシェアしよう!