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祭り囃子の風が吹く8

たかちゃんの苦笑から目をそらす。するとその先に焼きそばの屋台が見えた。 「たかちゃん、焼きそば食べよう」 「はいはい」 「次は綿あめ、それからじゃがバター、あとたこ焼きとか。いっぱい食べよう〜」 考えてみれば今いるのは祭りなのだ。金魚だけではない。魅力的なものがたくさんある。特に食べ物。 特に、食べ物。 屋台のものってなぜか食べたくなるし、いつもより美味しく感じる。だからついつい欲張ってしまう。 「いいぜ。腹は空かせてきた」 「えー、流石すぎる」 二人で笑い合ってまず焼きそばの屋台に突撃した。 「一つ貰えますか」 「はーい」 屋台のお姉さんにたかちゃんがさらっとお金を渡す。おれがお金を出す間もなかった。 事前に焼いていた焼きそばが詰められ、すぐに品は受け取れた。 「たかちゃん、半分だすね」 「いいって」 「なんでさ。今までこんなことしなかったくせに」 「前と今じゃ違うだろ」 「え〜?」 とりあえずなんとなく歩きながら、たかちゃんに仏頂面を向ける。たかちゃんの言葉に首を捻り、しばし考えてみる。 前と今で違うこと。 浮かんできたのは恋人という言葉。 そうか、たかちゃんは彼氏だから奢りたがってるんだ。 そう考えてたかちゃんの顔を見ると、心臓のあたりがキュッとする。 「ちょっとここで待ってて」 「なんで?」 「なんでも」 「わかったよ。迷子になんなよ」 「ならない〜!」 だけどおれだってたかちゃんの彼氏だ。いやこの場合、おれは彼女なのだろうか。 そんなことはどうでもいい。

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