724 / 961

祭り囃子の風が吹く9

おれはりんご飴の屋台に行って一つ買う。 それから人々の間を抜けてたかちゃんの元へ帰った。 「はい」 「俺に?」 「おれもあげる」 「……サンキュ」 ずいっと差し出すとたかちゃんは愛しそうに笑って受け取ってくれた。それが恥ずかしくて、おれは目をそらしながら焼きそばを受け取る。 でも心のどこかで、手を繋ぎたい、なんて思ってしまった。 まさかそれを言えるはずもなく、また二人で歩きだす。まあ、買いたいものはたくさんある。 歩きながらたかちゃんはりんご飴の包装を解く。 真っ赤なりんごの外側に、淡い赤色の飴がいる。つやつやと輝く姿はとても美味しそうだ。 なぜりんご飴にしたかと言えば、たかちゃんが毎年食べているからだ。その口から聞いたことはないけれど、おれは勝手に好きなのだろうと解釈している。 ただおれもりんご飴は好き。毎年毎年買いそびれてしまうけれど、好きなのだ。 「あーん」 「あっ、またやったな!」 だからたかちゃんの丸いりんご飴に歯型をつける。 甘酸っぱい味。やっぱり美味しい。 「おい、凛」 「いいじゃん〜」 もぐもぐと口を動かしながら、ニコニコする。 毎年こうだ。買いそびれてたかちゃんのりんご飴をかじったのはいつだったろう。わからない。だがそれからはこうやってたかちゃんのを取るようになった。 買いそびれてもたかちゃんのがある。そもそもこのやり取りが実は楽しかったり。 怒りの形相のたかちゃんだけど怖くない。 「……これだからりんご飴はやめらんないわ」 「ん? なんて?」 ボソッと呟かれた言葉は聞こえない。でもたかちゃんの口元は笑んでいる。 「何でもない。ほら、次の買いに行くぞ」 「わーい、行く〜」 たかちゃんと並んで次の屋台へ向かった。

ともだちにシェアしよう!