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祭り囃子の風が吹く13

「姫野じゃん!」 「うわ、松村いたの?」 「うわとか言うなよー!」 俺の横から松村が顔を覗かせると、途端姫野は顔を歪める。 この二人は妙に仲が良い、と言うより前からの知り合いだった感じがする。単に姫野の興味対象外というわけでもないように思えるのだ。高校一年の頃に同じクラスだったと言っていたから、その影響と言われればそれまでだが。 「蓮!」 「なに?」 「オレ他のサッカー部のやつらに混ざってくるな!」 「は!? どうしたんだよ、急に!」 言うが早いか茂は人混みの中へ紛れようとする。 「ちょっ、待てって……!」 伸ばした手はすんでのところで背には届かず、空を切った。あとは人の波に揉まれて見えなくなる。 残されたのは俺と姫野。 「蓮くん! せっかくだし一緒にまーわろっ」 「……」 姫野は気分良さげに話しかけてくる。上目遣いと共に向けられた笑みは、やはりいつもの作った笑顔だ。 「……わかったよ」 「やったー!」 茂がなぜこれほど姫野に気を遣うのか。姫野も姫野でなぜ俺の態度を見ても、めげずに迫ってくるのか。 それが不思議で仕方ない。だから探りを入れてみればいい。原因がわかれば解決法にも繋がるはずだ。 「まずは〜たこ焼き!」 「……。……おう」 一瞬の戸惑いを押し込め、腕を組もうとする姫野から少し逃げる。華奢な体をあくまで隣に留め、俺は歩き出した。

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