729 / 961

祭り囃子の風が吹く14

「こーんなに可愛いボクなんだから、奢ってくれてもいいのに〜」 「うるさい。奢るわけないだろ」 チョコバナナを手に持ちながら、姫野は軽く頬を膨らませる。俺はその顔から目を逸らす。 あれから俺と姫野は屋台を回っていた。 こんなに小さな体のくせに姫野は意外によく食べる。俺の胃袋についてくるぐらいだ。そこは素直に見直した。 それからもう一つ発見がある。 「あっ! 蓮くん、次は……」 そう。新しい屋台を発見した時の顔だ。 俺の名前を呼んでいるくせに俺を見ない。そして子供のように瞳を輝かせて屋台を見つめる。 この瞬間はまるで飾らない人間、どこにでもいる子供のようだ。 まだ腹には入る。だから付き合ってやろうと思った。 「あっれ〜? もしかして剛ちゃん?」 しかしとある声にそれは邪魔される。 姫野は声がした方を振り返り、唇を一瞬震わせる。その手からチョコバナナが滑り落ち、虚しく地面に茶色を散らせる。だが姫野の顔は固まってその角度から動かなかった。 「その顔。やっぱり剛ちゃんじゃん」 相手は男三人。にやにやと下品な笑顔を浮かべている。

ともだちにシェアしよう!