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祭り囃子の風が吹く17
目の前の姫野は俯いたままだ。その体は小刻みに震えていて、両腕で自分を抱いている。
茂との関係は。今のやつらは。中学時代何があった。
色々気にかかることはある。
だが俺には姫野を抱きしめる資格がない。そこまで責任を持つことはできない。だから小さな体での精一杯の抵抗を、崩すことなどやってはならない。
「剛太って……姫野の名前?」
結局口から出たのはそんな言葉だ。いつだってこういう場面で、いい言葉は出てきてくれやしない。
姫野の唇は俺の言葉に震える。
「……い、……て」
いや、違う。何か口に出しているみたいだ。
「……お願い、……忘れて」
「……」
姫野が出したとは思えないか細い声。
姫野は名前をひた隠しにしていた。誰に対しても名字以外言わない。先の男らとのやりとりで、考えてみれば気づく程度だったが。
しかしこの忘れてはそういうことではないのだろう。
未だ震える体。蒼白な顔。
もしかしたら姫野の行動は恐怖に駆られた結果なのかもしれない。
だから俺はまた姫野の腕を掴んだ。
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