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空に散る色5

「来年も再来年もずっと、この花火一緒に見られるね」 「……うん」 きゅっと亜樹の指先に力がこもる。そこが少し冷えた気がする。 隣を見た。亜樹の瞳は変わらず花火を見つめている。だけど揺らいでいた。 口を開く。息を吸って、また閉じてしまう。 まただ。亜樹のこの表情。 不安と迷いと決意と。全てが入り混じり、揺れ、ぶつかり、ぐちゃぐちゃになったもの。 なぜなのか。本人に聞いてみればいい。だけど俺の口は動かない。 何度こうして息を詰めただろう。 怯え、なのかもしれない。 得体の知れない何か。喪失なのか、呪縛なのか。とにかく何かが大きく変わってしまうような、そんなもの。 それに怯え、俺の口は情けなくも亜樹を救い出せない。 だけどこれからも一緒にいられるのだ。だからまだ遅くはない。まだ、平気だ。 「亜樹、好きだよ」 「……僕も。僕も、好き」 俺は手に力を込める。視線は花火に向けたまま。 小さな焦燥は胸の隙間に入り込んで、縫いとめられる。 戻れない場所へと着実に近づいていることに、俺は気づくことができなかった。

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