738 / 961
空に散る色5
「来年も再来年もずっと、この花火一緒に見られるね」
「……うん」
きゅっと亜樹の指先に力がこもる。そこが少し冷えた気がする。
隣を見た。亜樹の瞳は変わらず花火を見つめている。だけど揺らいでいた。
口を開く。息を吸って、また閉じてしまう。
まただ。亜樹のこの表情。
不安と迷いと決意と。全てが入り混じり、揺れ、ぶつかり、ぐちゃぐちゃになったもの。
なぜなのか。本人に聞いてみればいい。だけど俺の口は動かない。
何度こうして息を詰めただろう。
怯え、なのかもしれない。
得体の知れない何か。喪失なのか、呪縛なのか。とにかく何かが大きく変わってしまうような、そんなもの。
それに怯え、俺の口は情けなくも亜樹を救い出せない。
だけどこれからも一緒にいられるのだ。だからまだ遅くはない。まだ、平気だ。
「亜樹、好きだよ」
「……僕も。僕も、好き」
俺は手に力を込める。視線は花火に向けたまま。
小さな焦燥は胸の隙間に入り込んで、縫いとめられる。
戻れない場所へと着実に近づいていることに、俺は気づくことができなかった。
ともだちにシェアしよう!