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綻び1
○ ● ○
お祭りから始まった夏休みは、順調に過ぎていった。時に颯太と出かけてみたり、普通に勉強に励んだり。
それもそれで楽しかった。普通の日々も幸福だった。
だけどそれでは胸のほつれが癒えなくて。
"素直に話す"
その重要性を知った僕は、夏休みにある人に連絡を取った。
そして今日、その人と会うことになっている。
待ち合わせ場所にした駅でその人を待つ。人の往来がかなり多い。よく考えてみれば今日は日曜日だから仕方のないことだろう。
夏休みは曜日感覚をすぐに奪っていく。
人の多さに多少の気後れを感じていると、目の前に影ができた。
「……お久しぶりです、柊先輩」
「ああ。久しぶり、亜樹」
そこには変わらない柊先輩がいた。
前と同じ濡れ羽色の髪、そして特別にセットしたりはしていない髪。声のトーンも、雰囲気も、何もかも同じだ。
大学生になったからと浮かれたりしていないみたい。柊先輩らしいし、そこがいいなぁと思う。
「どこか店にでも入るか」
「はい」
柊先輩は辺りを見回すと僕を見る。僕が歩き出すのを待ってから、隣についた。
前より気遣われている気がする。そこが変わったのだろうか。そうだとしたら素敵だ。
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