741 / 961

綻び3

「亜樹は一つ、勘違いをしているようだな」 「……え?」 柊先輩の視線が僕を刺す。意図的にではないのだと思う。けれど僕には痛かった。 じくじくと嫌な予感が、そこはかとない不安が胸を締め付けた。 「何でもかんでも答えを誰かからもらえると思うな」 そして告げられた答えは、締め付け通りのもので。 まさかそのような言葉をかけられるとは思っていなかったので、僕は口を薄く開いたままになってしまう。 「よく考えてみろ。どうするのが正解か、答えは亜樹の中にある」 「……僕、の……」 わからない。そんなこと言われても、わからない。わからないから、柊先輩に答えを求めたんだ。 しかし柊先輩はそれ以上何も言わない。立ち上がったと思うや、伝票を持って出て行こうとする。僕は思わず視線で追うが、止められる言葉は何も出ない。 反して柊先輩は足を止める。 「飲み物を見てみろ。それ以上は言わん。僕はそこまで優しくないからな」 柊先輩はそう告げて、今度こそ歩き去る。 僕は呆然として飲み物に目を向けた。カフェオレだ。何の変哲も無い飲み物。コーヒーとミルクの飲み物。 どういうこと、だろう。何もわからない。もう本当に、わからない。 蜘蛛の糸だったみたいだ。 いよいよ絶望が喉元をせり上がってくる。 僕は両腕で自分の体をかきいだく。 どうするのが正解か。 答えがあるなら、教えてくれてもいいのに。僕はどちらが正解か、わからないから、柊先輩に。 「わかんないよ……」

ともだちにシェアしよう!