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綻び3
「亜樹は一つ、勘違いをしているようだな」
「……え?」
柊先輩の視線が僕を刺す。意図的にではないのだと思う。けれど僕には痛かった。
じくじくと嫌な予感が、そこはかとない不安が胸を締め付けた。
「何でもかんでも答えを誰かからもらえると思うな」
そして告げられた答えは、締め付け通りのもので。
まさかそのような言葉をかけられるとは思っていなかったので、僕は口を薄く開いたままになってしまう。
「よく考えてみろ。どうするのが正解か、答えは亜樹の中にある」
「……僕、の……」
わからない。そんなこと言われても、わからない。わからないから、柊先輩に答えを求めたんだ。
しかし柊先輩はそれ以上何も言わない。立ち上がったと思うや、伝票を持って出て行こうとする。僕は思わず視線で追うが、止められる言葉は何も出ない。
反して柊先輩は足を止める。
「飲み物を見てみろ。それ以上は言わん。僕はそこまで優しくないからな」
柊先輩はそう告げて、今度こそ歩き去る。
僕は呆然として飲み物に目を向けた。カフェオレだ。何の変哲も無い飲み物。コーヒーとミルクの飲み物。
どういうこと、だろう。何もわからない。もう本当に、わからない。
蜘蛛の糸だったみたいだ。
いよいよ絶望が喉元をせり上がってくる。
僕は両腕で自分の体をかきいだく。
どうするのが正解か。
答えがあるなら、教えてくれてもいいのに。僕はどちらが正解か、わからないから、柊先輩に。
「わかんないよ……」
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