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綻び6
「……っ、なに?」
二歩後退し、颯太から目をそらす。僕の手は服の胸のあたりを握った。
見なくとも颯太が困惑した様子をしているのがわかる。
「……いや、やっぱ心配だから熱をはかろうかなって」
「大丈夫だよ……。熱っぽさないし」
僕の様子がおかしいのを風邪を隠していると勘違いしたのだろう。
全部颯太の優しさだ。今日の出来事、全て。
僕はキッチンへ逃げる。颯太と僕のコップを出して、麦茶を冷蔵庫から取り出して。
「本当に、大丈夫?」
「ありがとう。でも本当に平気」
注ぐ量はどちらのコップも半分。
颯太はついてきたから僕の後ろまで来ている。颯太の温もりがすぐそばにある。
「でも亜樹、今日ちょっとおかしいよ」
「そんなことないよ」
あとはこのコップを運んで、颯太と少し話をして。飲み終える頃に帰ってもらって。
そしたらまた答えを出すために考えて。
くらりと視界が回る気がした。頭の中で色々なことがぐるぐる回る。
「……何かあった?」
「ううん、何も……」
「亜樹、本当に大丈夫なの?」
コップに手を伸ばしかけたところで、颯太の手が頬に触れようとする。
「……っ、大丈夫だってば!」
気づいた時にはその手を振り払ってしまっていた。
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