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崩れゆく3

『最近、亜樹は俺といると苦しそうだから。亜樹が何か悩んでいるのはわかる。だけど俺は理解してやれない。だから少し離れた方がいいんじゃないかなって、思った』 耳に入ってくる言葉は、ただの文字の羅列なんかじゃない。しっかりと確かな響きを持って僕の脳へ突き刺さる。 離れた方がいい? 颯太といると苦しいから? 僕を理解してやれないから? 本気で颯太はそう思っているのだろうか。本当に離れることが僕のためだって、僕らのためだって。 息が荒い。言葉のなりそこないが口から漏れ出ていく。 目は見開かれて、潤うどころか乾きを増していった。 『一旦お互いが自分のことや、相手のことを見直す時間。それが必要なんだよ、きっと』 これは颯太の気遣い。これだって、気遣いで。 僕が颯太のことを拒絶してしまったから、この形がいいという考えになって。きっと物凄く悩んでくれたんだろう。 『亜樹もそれでいい……?』 走馬灯のように颯太との思い出が駆け巡る。 出会った時のことも、悩んだ時のことも、喧嘩した時のことも。一緒の未来を勝ち取った時だって、些細な日々のやり取りだって、全部、全部。 大切な思い出全部。 全部全部全部。 「……そう、た……」 『うん。なに、亜……』 手にあるスマホを落とす。気づいた時には走り出していた。 靴も履かずに家を飛び出し、恋人の家へと向かう。 颯太。颯太。颯太、颯太、颯太。 好き。大好き。 心にある感情はそればかりで。今から自分がなにをしたいのかとか、何も考えられない。だけど颯太のところへ行かなきゃって、それだけは確かだった。 呼吸が不規則になる。走るのは苦手だ。 それでも僕は、人生で一番ってくらい、駆けた。

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