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崩れゆく4

見慣れた家が視界に入る。一気に階段を飛び越え、ドアノブに手をかけた。鍵はかかっていなくて、あっさり開く。 遠慮もせず家に入った。裸足で廊下を抜け、リビングへ通ずるドアを開ける。 「……亜樹」 瞬間、涙が溢れだす。 リビングには、颯太がいた。手にコップを持った、颯太が。飲み物でも飲んで落ち着こうとしたのだろうか。 「嫌だ!」 そんな思考を蹴散らして、僕の大声が空間を震わせた。同時に僕はこれを伝えたかったのかと気づく。 僕はボロボロに濡れた顔のまま颯太に駆け寄る。迫力のない顔で颯太を睨む。 「別れるなんて、そんなの、いや……!」 颯太は口を薄く開けて僕を見つめる。 困惑。不安。怒り。 その顔に浮かぶ感情はなんだろう。 でも僕の願いはそれに関係なく一つ。 「嫌だよ、颯太……! 僕、いや……そんなの、やなの……!」 だけど混乱した頭ではまともな理由一つすら出てこない。ひたすら嫌を連呼することしかできない。 叫ぶことに慣れていない喉がひりひりする。 「颯太……!」 「じゃあ!」 颯太が僕に負けず劣らずの大声を返す。 体が震える。 颯太の視線は僕を向いていなかった。 床を、見ている。

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