750 / 961

崩れゆく5

「じゃあ俺はどうしたらいいの!」 その拳は強く握られて、小さく震えている。 「亜樹の悩みをわかってやれない!亜樹に辛い顔をさせてばかり!ずっと!ずっとだよ!そんな自分が情けないし、嫌いだし、だけど解決方法はわかんないんだ!」 「……颯太……」 叫ぶ颯太を見るのは初めてだった。今まで溜めてきたものを全て吐き出すような、そんな悲痛な声だった。 大人に見える颯太も、まだまだ青年で、子供なんだ。 「このまま付き合い続けても、俺らに前進ってあるの!?」 颯太の視線が僕に刺さって、ぐっと息がつまる。捕らえられた瞳は揺れて、さらに涙が溢れ出す。 前進。 確かに、ないのかもしれない。 このままじゃお互いが、お互いのことを、考えて、悩んで、それで、 唇を噛んで逸らしかけた視線。その隅で何かがよぎる。 気になって向けた先には、二つの袋があった。キッチンに置かれたままの、ココアとコーヒーの粉。ココアの方は、僕のために颯太が常備してくれている。コーヒーは颯太のもの。 "飲み物を見てみろ" ふと柊先輩の言葉が思い出される。 「……そっか。そんなこと、だったんだ」 僕はとすっと颯太の胸に落ちた。

ともだちにシェアしよう!