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崩れゆく6
腕を回すと颯太の体から熱が伝わってくるようだった。
「……ごめん、ごめんなさい。颯太」
「亜樹……?」
叫んで冷静になったのか、抱きつかれて驚いたのかはわからないけれど、颯太の声はもう落ち着いている。
僕も僕で、落ち着いてしまった。同時にこんな簡単なことに気づけなかった自分が、馬鹿らしくもなった。
胸の中で顔だけあげる。一心に颯太を見つめる。
「僕の悩み、聞いてくれますか」
涙がまたこぼれた。情けなく、声も震えていた。
でも颯太の瞳も、震えていた。
これが一番欲しかった言葉なんだと、震えていた。
「……はい」
だけど放たれた言葉は真っ直ぐ、落ちてくる。
僕らは誓い合うように強く、強く、抱き合った。
話す勇気。
聞く勇気。
僕も颯太も、それぞれどこか少し足りなくて。過去に負った傷というのは、癒えたと思ってもどこかにあって。
最初から知っていたはずなんだ。素直に話せば気持ちは伝わること。一番信頼している颯太に、素直に話してみればいい。
前にそれを知ったはずだったのに。
僕はばかで、視野が狭い。こんなことに気づけず、ずっと苦しんでいたんだ。
でも颯太も今、同じことを思っている気がする。
聞けばよかったって。一人で完結せずに。
なんだ、僕と颯太はとても似ているみたいだ。
「……大好き、だよ」
「うん。俺も大好き」
涙がまた一筋、こぼれた。
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