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晴れゆけば1
颯太の部屋の窓に並んで腰掛ける。手にはそれぞれココアとコーヒー。氷がからりと音を立てる。
ふと空を見上げれば満月が輝いていた。
今さらながら今は夜だったのかと気づく。夢中で全くわからなかった。
隣の颯太はコーヒーを一口飲んでコップを床に置く。僕も飲んでみる。
颯太が作ってくれたココア。とても美味しい。落ち着いて話せる気がする。
冷たいコップを手に持ったまま、僕は口を開いた。
「僕の悩みは進路のこと、なんだ。志望校のことでずっと悩んでた」
夜とはいえ暑いことには暑い。氷がじわじわ溶けて、コップの中で揺れる。
茶色の液面がゆらゆらと揺れた。
「僕は一年の頃から東北の大学に行きたいなって思ってたんだ。法学が学べる。サポートが厚い。それから僕が行ける中で一番レベルの高い国立。そんな理由から」
「……亜樹はどうして法学を学びたいの?」
「弁護士になりたいんだ。困ってる人の助けにもなりたいし、安定した職にもつきたくて。でもある時から、強く、強く……顧問弁護士になりたいって思った」
ゆっくり瞼を下ろす。静かに開けると、また茶色の液面が視界に入る。
そこから隣に視線を移す。榛色の瞳が視線に気づいてこちらを向いた。もっと柔らかい茶色。
「…………九条の」
「……亜樹」
颯太の瞳が大きく開かれて、過去を見る。下田さんの言葉を、その視線は追っている。
九条には有能な顧問弁護士がいないから、僕が、なりたい。
ふっとまた目を戻す。ココアを一口含んだ。
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