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晴れゆけば2

「でもね、受験が近づくにつれ一つ気づいたんだ。僕が東北に行ってしまったら、颯太とは一緒に過ごせないって。それに悩んで、苦しむようになった」 満月は僕らを見ている。出会いの日と同じ光を、僕らに注いでいた。 僕はぎゅっと目を瞑って、馬鹿だった自分を心の中で悔やむ。 「だけどまだ諦めるのは早いって思ったのが、去年のクリスマス」 「……二人で旅行に行った時」 「……うん。颯太が指輪をくれた日、だね。すごく嬉しかった……ずっと、一緒って……」 左手を広げてみる。薬指に光はない。 僕の勉強机の棚の一段目。今の居場所はそこ。 左手をきゅっと握る。 「それからの僕が見つけた解決策は、志望校を変えることだったよ。家から通える範囲にすれば、颯太とずっと一緒だから。今まで通り。約束の通り……」 息が詰まる。 恐怖があった。正直に話しても、何か変わるのかって。悩みを共有して、少し安心して、解決には至らないんじゃないかって。 コップを強く握る。冷たい。 「今の志望校だってサポートの差はあれど法学は学べる。それに颯太とずっと一緒。そうやって……言い聞かせてた。自分を、誤魔化してた……」 目の端が熱くなる。 馬鹿な僕。臆病な僕。 言葉にすると胸に深々と突き刺さる。向き合うことはとても痛い。 「本当はわかってたんだ。この選択が間違ってるって。でも知らないふりしてた。そうじゃなきゃ、颯太と……」 そうやって自分の悩みに蓋をすることは、悩むことよりもずっと苦しかった。 終わりのない地獄。内側から常に攻撃される。 矛盾を生んだ僕の望みと答えは、決して繋がろうとはしてくれなかったんだ。 「颯太は大学卒業したら九条に入って、今よりずっと忙しくなって……だから、だから、大学が最後のチャンスだって……僕、そう思ったら、もう……!」 「亜樹!」 カランと地面にコップが落ちる。ココアが地面に散った。

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