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フリージアのあわ4
「わざわざお迎えかよ〜愛されてるオレ〜!」
「違うから」
ふざけて抱きつこうとしてくる茂の顔を押し返す。
目を閉じて、息を吐いて、吸う。
「そういや茂ってさ、姫野と中学一緒だったんだな」
ふと思い出した風を装って声を出す。
いつも通りの雰囲気で言えた。
心臓は早鐘を打っている。それでも普通の表情で茂を見る。茂はきょとんとした顔で見返してきた。
「それどこ情報だよ〜」
「姫野と祭り回った時にちらっとな」
しかしすぐに可笑しそうに笑いつつ返してきたから、俺も半笑いで返す。
「そかそか!まあ、うん。合ってるよ」
「姫野って中学時代どんな感じだったんだ?」
別にやましいことではない。そう自分に言い聞かせても、嫌な汗が落ちそうだった。
そんなの理由は明白だ。
俺が、
「蓮、それはずりぃよ!」
狡いから。
はっと顔を上げる。
茂は白い歯を見せながら俺を見ていた。責めている雰囲気はない。
しかし茂にそんなことを言われると、心臓が強く掴まれるようだった。
「なんだよ、それ。てか俺、トイレ行きたかったんだわ」
「漏らすなよ!」
「漏らさねーよ!」
俺は軽く笑って茂に手を振る。
いつも通りの茂。だがその瞳には失望がいた気がした。
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