763 / 961

フリージアのあわ5

トイレの個室に座り、ぼーっと上を向く。 茂は、空気は読めるやつだ。そんなあいつに指摘されてしまうとは、なんてかっこ悪いのだろう。 姫野に直接聞くのはなぜ嫌なのか。それは姫野とそこまで深く付き合うつもりがないからだ。 そもそもあんなストーカー放っておけばいいんだ。 なんて考えても気になってしまう。 だけど聞くのは躊躇う。 「……ああ、怖いのか。俺」 言葉にしてみる。妙にしっくりと馴染んだ。 俺は恐れている。 この関係の発展か。崩壊か。吐き出させることに対してか。 理由は自分でさえわからない。けれどきっと恐怖を抱いているんだ。 別にただの過去だ。人の過去。 姫野は忘れてと言った、過去。 俺の心を捕らえて離さない、過去。 腕を真上に上げて伸びをする。次に思い切り脱力してみた。 長く長く息を吐きながら、目を閉じる。 最後に小さく「よし」と呟いて、俺はトイレから出た。

ともだちにシェアしよう!