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フリージアのあわ6
トイレを出てまっすぐ教室に戻る。
人が嫌がっているのだから、聞かない方がきっと懸命だ。あのことは全て記憶から消してしまおう。
言い聞かせて歩いていく。すると後ろから足音が聞こえてきた。
「蓮くーん!」
聞き覚えがある、そう認識すると同時に、姫野が腕に抱きついてきた。
「姫野っ……」
「途中で会えるなんて嬉しい!」
いつも通り語尾にハートがつきそうな喋り方だ。愛想をこれでもかと振りまいている。
意表をつかれたせいで思い切り狼狽えてしまう。
「どうしたの?」
「あ、いや……」
思い出したように俺は姫野の腕をどける。姫野は気にせず、不思議そうに覗き込んできた。
丸く大きな瞳が、長い睫毛に縁取られている。綺麗に生え揃えていて、化粧でもしているみたいだ。
そこでハッとする。
何を観察しているのだ、俺は。
「聞きたいことあったん……あ」
誤魔化そうと声を発すれば、今度も失敗する。
姫野の前では失敗するような呪いでもかかっているのだろうか。
「えっ!なになに!?蓮くんからの質問なら大歓迎だよ」
途中で切るも、姫野はバッチリ食いついてしまう。嬉しそうに瞳を輝かせて見つめてきた。
これ以上誤魔化そうとしてもさらに失敗を生みそうだし、もうなんでもいいか、姫野だし、なんて考えが浮かぶ。
「中学の時、何があったんだろうな〜って」
投げやりな思考と一緒に俺は質問を投げかけた。
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