768 / 961

読めぬ心と体育祭3

パンッと銃から音が鳴って、渡来含め競技者が走り出した。 スプーンレースはその名の通りスプーンにピンポン球を乗せて走る競技だ。一周四百メートルを走る。いかに落とさないかが勝利の鍵だろう。 渡来は手元のスプーンを見つめながら走っている。走るというよりは早歩きに近いかもしれない。 ぽてぽてと懸命に歩いている。バランス感覚があるのか落とす気配はなかった。 ただ周りの人より進むスピードは遅い。今の所最下位だ。 もしこれがあいつだったら向こう見ずに走って、落として、抜かされて、なんてやりそうだ。 競技中に転けるのもあり得そう。 想像してくすりと笑う。 それで微妙な順位か最下位になって、弁明をしてくるとか。それで俺はこれで総合一位ないなとか言ってやるんだ。 「亜樹ー!ファイト!」 隣の間宮が大声を出す。はたとレースに気を向ければ、渡来はなんと一位になっていた。 どうやら他の選手は途中で落として減速したらしい。だが渡来は堅実に落とさず進んだ。 「渡来ー!行けー!」 俺も大声を出す。 体育祭ではこうやって予測のつかないことが起こるから面白い。 そのままレースは進み、渡来はゴールテープを切った。 ゴールして一位の紙を渡されながら、驚いた顔をしている。自分を自分で信じられないのだろう。 その場で呆けている。 「清水くんはさ、亜樹と姫野くんどっちが好きなの?」 「……は?」 間宮の質問に心臓が掴まれる。鼓動が早まっていく。 素直に渡来のところへ行ってやればいいものを、何のつもりなのか。 「なんでそんなこと?てか今聞く必要あるか?」 「えー、だって気になったから」 間宮はあくまで視線は渡来に向けたまま。そして綺麗に微笑んでいる。 間宮の真意を探ろうと口を開きかける。 「颯太!颯太!一位だった!」 だがその前に興奮を露わにした渡来が、間宮のところへやってきた。

ともだちにシェアしよう!