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読めぬ心と体育祭4
「すごいね、亜樹」
間宮に抱きつかんばかりの勢いで喋りかけている。興奮で頬が赤らんでいる。キラキラ光る瞳で間宮を見上げている。
間宮は渡来の頭を優しく撫でてやっていた。
完全に二人の世界だ。
間宮の方はさっきの質問なんてなかったかのような顔。
「始まって、いっぱい抜かされたけど、僕なりに頑張ろうって思ってたの」
「うん」
「そしたら一位になって驚いた!今でも信じられない」
「亜樹、一回も落とさなかったもんね」
拳を握って語る渡来とその手を優しく握っている間宮。
前々から仲はよかったが、夏休みを経て更に近づいた気がする。気のせいだろうか。それとも何かあったのだろうか。
さっきの質問は俺を牽制するためかとも考えたが、これならそんな必要はない気もする。
「可愛かったし、かっこよかったよ」
「ほんと?」
「うん。もちろん」
「ありがとう」
そもそも姫野と渡来どちらが好きかなんて、聞く必要はないはずだ。姫野は成り行きで関わっているだけ。俺が好きなのは渡来だ。
それは昔も、今も、変わらない。
可愛くて、一生懸命で、守りたくなる渡来だ。
「清水くんにも喜びの報告を」
「えっ!あっ!」
急に間宮に振られて驚く。渡来はその時初めて俺に気づいたみたいで、羞恥で赤くなっている。
なかなかに酷い。だがそういうところだって可愛い。本当に叶わない恋だ。
「おめでとう。すごかったよ」
「ありがとう……」
「それに可愛いかったよ」
「あっ……えと……」
妖艶に微笑んでみる。渡来は俺が渡来を好きだって事実を思い出したのか、更に赤くなる。
「はーい。ムカデ競争の会場に向かおう」
「嫉妬深いやつ」
間宮は俺を見ると、渡来の肩を抱いて身を翻す。ため息を一つついて、二人について歩き出す。
わざと渡来の隣に並んだ。
愛しい渡来の隣に──
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