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読めぬ心と体育祭5

「あっ!凛くんと松村くん並んでるよ」 渡来が待機列に並んでいる二人を示す。もうすでに五人一列で足首を紐で縛ってある状態だった。 小室が先頭で三番目に松村が並んでいた。背の順みたいだ。 見る限り次のレースなのだろう。 人数の多さから各競技の時間が少し被っているが、なんとか間に合ったようでよかった。 一番見えやすい位置に向かう。だが人の波がそれを阻む。 「おお、間宮に渡来に清水」 その隙間から轟が顔を出した。申し訳ないがそこを目指して人ごみを分けた。 「轟はずっとここにいたのか?」 「凛が駄々こねるから」 「そうなん?」 この人混みで最前列を取るなんてと問えば、轟は呆れたように答えた。だがその顔にはどこか喜色が滲む。 「たかちゃん以外とくっつくのいや〜ってうるせぇの。じゃあなんでムカデにしたんだよ」 「だから直前までベタベタしてたんだ」 「のしかかられて重いだけだわ」 「とか言って〜」 轟は頬を赤らめて間宮を睨む。 いちゃついているところをからかわれたらそりゃあ照れるだろう。それでも態度を変えないのは間宮と小室くらいのイメージだ。 「つーか小室って前からそんなだっけか?」 「そんなって?」 「前はもっとフラットっていうか、他のやつとくっつくとか気にしないイメージだったわ」 「あー……」 不思議に思って普通に問えば、轟の顔はさらに赤くなる。視線はきょろきょろ動きつつ、「まあ色々あったから……」と漏らした。 頬をぽりぽり掻く轟を見ながら、変わらないわけないかと思う。 二人は幼なじみだが恋人でもあるわけだし、関係が進展すれば態度も変わっていく。渡来と間宮だってそうだった。 俺には久しくわからない感覚だ。 しかもしばらくわかることはないであろう、感覚だ。

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