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読めぬ心と体育祭8

まず最初に待ち構えていたのはネット。地面に張られたものを、匍匐前進で皆抜けていく。姫野は小柄だし器用なのか、スイスイ進んでいた。 珍しく険しい顔だ。真剣さもうかがえる。 姫野は一位でネットを抜けた。パタパタ脚を動かして、次の障害に向かう。その後ろに四人がそれぞれ続いた。 次の障害は麻袋らしい。麻袋に体を入れ、そのままジャンプで進むみたいだ。 五人がたどたどしくジャンプしている様はどこか面白く、どこかもどかしい。周りからは大きな声援が送られていた。 俺はただ競技を見つめる。姫野は応援者の方は一度も見ない。 「うわぁー!姫ー!!」 ──姫野が抜かされた。 そう気づくのと、彼氏陣から嘆きが上がるのが同時だった。 力強くジャンプして大きく進んでいく選手に、姫野は抜かされてしまったのだ。ハッと目を見開き、それから唇を噛む。脚は止めていない。 ゴールとなっているラインに一人がたどり着き麻袋を投げ捨てる。姫野は数秒遅れてそこについた。 脚をもつれさせながら麻袋から飛び出し、次の平均台に走り寄る。 先にいる生徒はもう真ん中あたりにいる。 姫野は彼に目もくれず、パッと足を乗せた。 俺は目を見開いた。 速い。 思わず口が半開きになった。 「うぁぁ!姫ちゃん!!」 俺の気持ちに合わさるかのように彼氏陣は声をあげる。 姫野は驚異の平衡感覚で走るのと変わらないくらい速く平均台を駆けていった。当然先の生徒は抜かされる。 再び一位になった姫野は平均台を飛び降り、懸命に走る。 最後は粉が敷き詰められたバットの中から、大福を口で見つけるものらしい。顔が真っ白になる。姫野が嫌がりそうなものだ。 しかし姫野は止まるや否や、ズボッと粉に顔を突っ込む。 後ろから四人が次々に並ぶバットにたどり着いていく。彼らも一様に顔を突っ込んだ。 そして最初に顔を上げたのは──

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