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霞1
走ってパン食い競争の待機列に並ぶ。先に来ていた一組のやつらに「おせーよ」と小突かれた。
障害物競走を見たせいでギリギリになってしまった。
「わりぃ、わりぃ」と笑顔で返す。
程なくして待機している集団全員がグラウンドに通される。そこからクラス学年ばらばらに、ひとレース五人ずつで走る。俺は一番最初のレースだ。
すぐにスタートラインに案内された。
応援スペースの方を見てみる。ざっと見たところ姫野の姿はなかった。あいつのことだからてっきりいるのかと思ったのだが。
まあ、そもそも俺の競技を知らない可能性がある。
そこまで考えてハッとする。なぜすぐ姫野のことを考える。しかしすぐさま、その理由からハッとした自分をおかしく思う。別に先ほどまで一緒にいた相手だ。自然と思い出してもなんらおかしくない。
首を左右に振って、改めて応援スペースを見た。すると小室や茂の姿が視界に入った。五人揃っている。もちろん渡来もいる。
めいめい手を振ったり、拳を突き上げていたりするから、親指を立てて返事をしておいた。
「みなさん、用意はいいですか」
その時、スタート合図の係りの先生が声を上げる。そして銃を上に向けた。空いた手は耳あてに触れる。
しんっとその場が静まった。別のグラウンドの声がうっすら聞こえる。
心臓の鼓動が早まる。一回唾を飲み込む。
そして、パンッと音が鳴った。
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