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霞2

競技者が一斉に走り出す。声援がわっと体を包んだ。応援している側とされる側では熱量が大違いだ。 最初の関門はハードル。 パンだけではつまらないからとハードルをいくつか超えてから、パンがぶら下げられている。 スピードは変えないまま踏み切り、ちょうどいい高さのハードルを越える。 また越える。超えていく。 目線の先には二人の競技者。 今回は運悪く運動部だらけのレースだ。だが俺だって運動部。負けたくない。 そして懸命に走り続け、最後のハードルを越えた。 その時、 「蓮くーん!頑張れー!」 はっきりと聞こえた。 多くの声援に紛れて、しかしはっきりと。 顔だけを応援スペースに向ける。 姫野はいた。ぴょんぴょんと飛び跳ねて、最前列で手を振っている。 「うわっ」 それに気を取られたせいで何かに足を引っ掛ける。前につんのめって転びかけた。それをすんでのとこで耐え、体勢を整える。 思わず歯を食いしばった。だがめげずに走り出す。 今の動作で残り二人にも抜かされてしまった。四人の背を追いながら、パンの元へ走る。 「ちくしょう……!」 様々な苛立ちを込めて俺は飛び上がる。一発で取れたパンを咥え、また走る。 四人目の背中はもうすぐそこだ。 わぁっとひときわ大きな声援が上がった。一人目がゴールする。 それに続いて二人目、三人目。 そして──四人目。 一秒も経たずに俺。

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