777 / 961

霞3

パンを口から毟り取り、はぁっと息を吐き出す。 息を整えていると係りの人から五位の紙を渡される。小さな紙にでかでかと『5』の文字が書かれている。 特にかっこ悪い五位だ。そんなことを思いつつ、一組の箱へその紙を入れ、応援スペースの方へ向かう。 「れーんくん!」 「……姫野」 姫野が応援者の輪を抜け駆けてくる。いつも通りの笑顔にいつも通りの可愛らしい上目遣い。いつも通りの作りもの。 「すっごくかっこよかったよ!」 そう言って姫野は俺の手を掴む。 その瞳は煌めいている。 「特にパン取ったところ!他の人は何回かやってるのに、蓮くんはいっか……わっ」 ついその手を思い切り振り払ってしまう。いつもよりかなり強かったせいか、姫野は一瞬痛そうな顔をした。 眉間にしわを寄せ、目をそらす。 「……かっこいいわけあるかよ」 「れんく……」 姫野を無視して俺は渡来たちがいる方へ向かう。 イライラする。無性に。 自分にか、姫野にか、全てにか。 「お疲れ様、清水くん」 「姫野には相変わらずの態度だなぁ」 「蓮ー!かっこ悪かったな!」 「松村くん辛辣〜」 俺が輪に入れば、わっと声をかけられる。苛立ちが萎んでいくような気がした。 うん、この中は楽だ。 「うるせー、かっこ悪いのは俺が一番わかってるっての」 へらりとみんなに笑顔を向けた。

ともだちにシェアしよう!