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霞4
俺の競技が終わったあとは、昼休みとなって昼食を取った。轟と間宮は次の二人三脚に出るということで、一足早く出て行った。
そして昼休みが終わる頃に茂や小室、渡来と一緒に教室を出て、応援スペースにたどり着いた。
応援スペースは相変わらず混雑している。
どこの誰ともわからぬ声が耳に終始入ってくる。
こんな喧騒に包まれていると、考えたくないことまで頭に浮かんできてしまう。
例えばそう、姫野のこと。落ち着いた状態で考えると申し訳ない。
自分が苛立っていたからってあの態度は酷かった。いくら姫野でも謝るべきだろう。
だが姫野のことだから幻滅してもう話さないということもありうるかもしれない。なら別に謝罪しなければよいだけだが……。
「たかちゃんいた」
「えっ、どこどこ?」
「ほら、あそこ〜」
その時、小室の声が耳に入る。
隣に立つ小室が轟の姿を捉えて嬉しそうな顔をしている。指をさして茂に教えてやっている姿も、どこか嬉しそうだ。
平和で羨ましい。それに微笑ましい。
思わず笑みをこぼしていると、「可愛いよね」と隣から声をかけられる。
見れば渡来も微笑ましそうにしていた。そんな様子を見せる渡来が、寧ろ可愛いのではないだろうか。
「可愛いですよ、亜樹先輩の方が」
「ひゃっ」
背後から抱きつかれて渡来はビクッと体を震わせる。声の出どころはもちろん仁。
間宮がいないから好機だとでも思ったのか。
「じ、仁くん、離れて……」
「そうやって可愛い声出したら離れられないですよ」
「出してないってば……」
「仁、やめろ」
「いっ」
仁の手が渡来の体操服の隙間に向かうのを見て、俺はその頭を叩いた。仁はすぐ俺を睨んでくる。変わらぬ生意気で早熟な瞳だ。
かなり強く叩いたというのに渡来を離さないのだからいい度胸をしてやがる。
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