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増加関数と方程式2

電車を乗り継ぎやってきた町。貰ったチケットの旅館がある町は、今も流行っている温泉街みたいだ。 駅から出て少し歩けば、人々でごった返す通りに行き当たった。まだ昼前だが、浴衣姿で歩く人もいる。 「すごいね、蓮くん!おみやげ屋さんとか食べ物屋さんとか、いっぱい!」 「だな。賑わいもあっていい雰囲気」 姫野は温泉街をキラキラと輝く瞳で見つめている。 まるでこういったスポットに初めて来たかのようだ。こいつなら何人もいる彼氏にいくらでも連れて行ってもらえそうだが。 「あそこのお店気になる!蓮くん、行こ!」 「おいっ、引っ張るなって!」 姫野は俺の手を掴んで歩き出す。今にも駆け出しそうな姫野を俺は軽く止める。 「だって初めてなんだもん!」 しかし振り向いて笑った姫野の言葉で、大人しく従うことに決める。 姫野が忘れてとまで言った過去を無理やり聞きたいがための旅行だ。ならば少しくらい姫野に尽くしてやってもいいかと、ほんの気まぐれに、思った。 「お前のことだから彼氏と行ったことあんのかと思ったわ」 手を引かれ、土産物を扱う店に向かいながら言ってみる。 「……そういうの、ないよ。というかボクから断ってる。ボクを愛してくれるだけでいいから」 「……姫野」 「ついた!」 姫野の言う『愛す』に酷く不快感を覚えた。 同時にまた地雷を踏んだと焦れば、姫野は明るい声で店を指差した。 通りの喧騒から少し離れる。半分露店のようになっている店には、客が少しいた。 多くの店が軒を連ねているのだから、客の数は分散されるのだろう。 姫野はパッと俺の手を離して店の商品を眺めだす。 動物のキーホルダーや人形であったり、饅頭、麺類などの食べ物であったりが売られている。温泉街のマスコットらしい狸のキャラグッズも置いてあった。よくある土産屋だ。

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