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増加関数と方程式3
「蓮くん、見て見て!」
手を握っては開くを繰り返していると、姫野が声をかけてきた。意識をやっとそちらに向ければ、店の奥の方で俺を手招きしている。
何を見つけたのだろう。素直に近づく。
「どうした?」
「これ、すごく可愛くない?ちりめん生地のキーホルダーなの!」
「へぇ……」
思わず感嘆にも似た声が出る。
姫野が示す棚にはずらりと様々な動物のキーホルダーが並んでいた。ちりめん生地特有の素材感を生かした、素朴なデザインの動物たち。
無地のものだけでなく、柄物をうまく繋げているデザインもある。一つ一つ凝っている。
「あっ、この子看板とかにもいたよね」
「ああ。その狸、マスコットキャラなのかもな」
姫野が数いる動物の中から一匹を取り出す。それは他の動物とは毛色の異なった狸のキーホルダー。
顔はまさしくマスコットの狸のものだ。どこか眠そうな雰囲気を醸すビーズの瞳が、こちらを見つめる。
「……たぬたぬ、って名前らしいよ!」
「なんか単純だな」
「でも可愛いよ」
「なんで逆接なんだよ……」
姫野は自分の顔の高さまでたぬたぬのキーホルダーを持ち上げて揺らす。その表情は自然なもので、ふわりと嬉しそうな色をまとっていた。
無意識に頬が緩む。
「ねーぇ、蓮くん!お揃いにしてくれる?」
ふふっと声を漏らしつつ、姫野が妖しげに笑う。流し目に射られた俺はパチパチと瞬きを繰り返した。
「……なんてね!」
姫野は笑顔を引っ込めると、たぬたぬを棚に戻した。
「申し訳ないけど、ボクはみんなのものだから!」
「誰もして欲しいなんて言ってねーよ」
「とかいって〜!」
つんつんと俺を指で突く姫野を放って、俺は露店から出る。「待ってよ〜」と姫野は慌ててついてきた。
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