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増加関数と方程式4

その後も温泉街を楽しんで進んだ。 食べ歩き用のものを買って食べてみたりだとか、クラス用のお土産を見たりだとか。 不思議と姫野といるのは悪くなかった。以前は教室に来るだけでも願い下げだったと言うのに。 姫野が少しずつ素の姿を見せてくれるようになってきたからだろうか。それとも温泉街の明るさに絆されているだけか。単に慣れただけか。 「わっ、可愛い!」 今入っている露店の中で姫野が何かに飛びつく。またもやそれは動物のグッズだ。 姫野は動物が好きなのだろう。どの店でも食べ物より何より先に飛びついている。 「いっぱいいると目移りしちゃうなぁ」 俺のことなど目もくれず、姫野は動物の並んだ棚を見つめる。一匹手にとっては戻し、またとっては戻す。 ふと気づく。 姫野は動物の商品に飛びつくが、一つも買っていない。今日買ったのは十二組の人用のお土産だけだ。 買ってやるか。 不意にそんな考えがよぎる。 具体的な言葉にすれば途端いい考えに思える。 どうせなら驚かせるのがいい。 俺は姫野に気づかれないように店を出る。 そこまで離れていない別の土産物店に入り、動物のグッズを探す。 どうやらたぬたぬのことを気に入っていたようだし、そのグッズを探す。 嵩張らないものがいいだろうから、ストラップかキーホルダーがちょうどいい。 店内をなんとなく散策して、行き着いたのはちりめん生地のものだった。俺がなんとなく気に入ってしまった。 布の方が温かみもあるだろうし。 スマホに付けられるくらいのキーホルダーを購入して俺は店を出る。 すぐに済ませたし、姫野は俺がいないことに気づいたあたりかもしれない。 それでこれを渡したら、どんな顔をするか楽しみだ。 先ほどの店に向かうと、入り口あたりに姫野が見えた。 「おーい」 手をあげると、姫野が気づく。 「ひめ……」 言い切る前に感じる、質量。

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