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増加関数と方程式6

「わー!部屋ひろーい!」 姫野が案内された旅館の部屋に駆け込む。 部屋の中央に布団が二つ敷かれ、テレビや低い机、冷蔵庫なども置かれている。それでも十分に広かった。 どれだけいい部屋を用意するのか。高校生では容易に手は出せない。学校の財力、いや九条の力はほとほと恐ろしい。 「素敵だね、蓮くん」 「ああ。いい部屋だな」 姫野は嬉しそうに笑いながら、部屋を見て回っている。その姿は誰から見ても上機嫌だ。 この様子は俺がキーホルダーをあげたあとから。鼻歌でも歌い出しそうなほど足どりが軽く、時々スマホから伸びるたぬたぬを見つめていた。 一瞬おかしかったものの、今この様子ならあげた甲斐があるというものだ。 もともと過去を聞くための旅行だが、もういい気がしてきた。もとは十二組の賞品だというのに俺が楽しんだし、姫野も楽しそうだ。それで丸く収まる気がする。 「ねね、蓮くん!浴衣!」 「ん?おお、あるのか」 「温泉行こ!」 姫野はどこから出してきたのか二人分の浴衣を持ってくる。俺は姫野から一つ受け取って「ああ」と返事した。 「露天風呂もあるんだよね」 「らしいな。少し寒いかもだけど」 「まだ冬じゃないし平気だよ」 部屋の鍵を閉め、二人で階下の温泉に向かう。 露天風呂はここの旅館のお勧めらしい。パンフレットにも大きく紹介されていた。 「少し遅い時間だし、すいてるといいな」 「うん!そしたら楽しめるもんね」 雑談を繰り返しながら、俺と姫野は大浴場に向かう。

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