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剥かれていく心1
お互い旅館の浴衣を身につけて部屋へ帰った。姫野は何度も温泉の感想を述べている。俺も途中からは多分に楽しめた。
姫野は既に敷かれた二枚の布団を避けて、自分の脱いだ衣服をしまいにいく。浴衣からのぞくうなじがほんのり赤い。
明日は旅館を出て、少し観光して、帰宅という流れだ。ゆっくりできるのはもう今だけで、となると今聞くしかない。きっと姫野も同じ考えだろう。
ただ本当にもういい気がした。
満足と恐怖と面倒と。回る感情はうまく掴めないが、とにかく姫野に無理させてまで話してもらう必要はない。そう思う。
「姫野──」
「さって、約束果たさなきゃ」
俺の言葉と姫野の言葉は同時だった。
振り返ってにこりと笑う。姫野の笑顔はとても美しい。
何故だろう。俺はその笑顔に気圧されてしまったのだろうか。言葉が出ない。
「そうだ!月を見ながらにしよ!さっき綺麗だったもんね!」
「……あ、ああ」
姫野はパッと窓の方へ行く。
先程温泉から見上げた空には満月が昇っていた。
姫野がカーテンを開ける。
「……やっぱり、綺麗……」
姫野は空を見上げ、その輝きを瞳に映す。綻んだ口元はふるりと一瞬だけ震えた。
その場に姫野は体育座りをし、隣を手で叩く。向けられる可愛らしい笑顔に俺は従った。
柔らかい畳の感触が尻から伝わってくる。
何をどう吐き出して、何をどう飲み込めばいいのかわからない。複雑な感情は俺から言葉を奪う。
握る拳に、見上げる満月。
「……ふふっ、改めて話すのってなんだか緊張するね〜」
隣から、姫野の声が聞こえてくる。
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