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剥かれていく心2
姫野の言葉に否応なく鼓動が早まっていく。一回荒い息が漏れ、自分の緊張が感じ取れる。ここまで緊張するなんて、なんだか馬鹿みたいだ。
息を吸う。罪悪感も高揚感も、邪魔な感情は一緒に飲み込んだ。
「でもボクの過去なんてすごく単純なんだよ。単にいじめられてたってだけ」
「……」
思った通り。そう諦観する俺と、平静を装う姫野に寄り添う俺と。
二人、俺がいた。
「昔から女っぽい見た目に、小さい体でさ。でも名前は剛太なんてゴツくて。いじめの標的にはぴったり。中学時代ずっといじめられてた」
とつり、とつり。静かに語る姫野の声音は、窓を超えて空に溶けてゆくようだ。
それでも俺には鋭利なナイフのように突き刺さる。こんなことを話させる自分への罰かもしれない。
「でも松村はね、普通だったの」
「……普通?」
「いじめなんてないかのように接してきた。いじめられている人に話しかけるって態度じゃないの。本当に普通に」
「……茂らしいな」
「うん。中学時代は松村に救われてた……ってのは否定できないかも」
視線を感じて隣を見る。
姫野は体育座りの膝に顎を預け、傾けた頭で俺に笑顔を向けていた。
華奢で、女みたいな、見た目。
小さな弱々しい心。
思わず手を伸ばしたくなった。
だが俺の手は踏みとどまる。茂の顔が脳に浮かんだ。
俺は姫野の中学時代を想像するしかできない。だが茂は知っている。そう思うと仄かに苛立つ気がする。
その感情より確かなのは姫野に寄り添う資格が、俺にはないだろうというもの。雰囲気にあてられて、下手に手を伸ばすなんて最低だ。茂のようなうまい態度も取れない俺だから、なおさら。
「だ……けど、それなら茂は隠す必要ないよな」
気づけば取り繕うような言葉を発していた。
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