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攪拌2
地味に重い本を持ち、階段を登っていく。踊り場を抜け、また登り、二階に着いたら廊下に出る。
そんな短い作業でも腕は悲鳴を上げそうだ。
とは言っても二階にさえつけば理科実験室はすぐ。その中を抜けて、資料室に入り、本を戻す。それで終わり。
幾分足早になって俺は理科実験室に向かった。
二階の端にある理科実験室の扉が見えてくる。二枚のクリーム色の引き戸だ。
近づいて、一旦足元に本を下ろす。
「……うっん、…………はぁ……」
ドアに手をかけた瞬間、何かの声が聞こえる。
押し殺した声ではある。
だがこの声は、姫野のものではないだろうか。
途端背骨が震え、一歩後退する。
嫌な感じ。嫌な予感。
この先に広がる光景を見てはならない。
危険信号を必死に発する脳を無視して、手は引き戸を開ける。
「……っ」
息が、止まった。
姫野と知らない男。
姫野は気持ち良さげに相手の男に抱きつき、相手の男は俺に背を向ける形で姫野を抱きしめている。
姫野の下半身は何もまとっておらず、上の制服もだいぶ乱れている。
「あっ……ひぅ、ァンッ……」
「相変わらず姫最高……」
どちらの声もどこか艶めき、荒れた吐息の合間で囁かれる。
確かに目の前で起こっているはずなのに、別世界の出来事みたいだ。これは姫野ではないと、俺の知る姫野ではないと、心が言っている。
でも、この姫野も、確かに。
俺が、目をそらしてきた、この。
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