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攪拌3

「あぁんっ……きもち、りゅうくっ……ん」 「はは、かーわい」 誰だ、誰だ、だれだ。あれは誰だ。 混乱する。落ち着かない。 それでも姫野の嬌声だって、相手の男の声だって、俺の耳には入るわけで。 姫野は気持ち良さそうだ。姫野の腰は妖艶に揺らめいている。 なんだこの光景は。現実なのか。 姫野は相手の男にきつく抱きついている。 あの時、俺にしたように。 あの時と違って、とても幸せそうに。 離れない。離れない、離れない。 二人の声も、二人の様子も、二人の体も、何もかも。何もかも。 俺の脳みそを縛り付ける。足が根を張ったみたいだ。 「姫、好きだよ」 「……うんっ……ボク、も……」 姫野の表情が、へにゃりと崩れる。 欲していたものを、与えられた顔。安堵の笑顔。 逃げろ。 脳は明確に命令を発した。 俺はとにかく足を動かした。 バサッと、本の崩れる音。 同時にまぐわいの声が静まる。 「誰かいんの?」 本から教室内に視線を戻す。 先に姫野と視線が絡んだ。 姫野の瞳が見開かれ、そこに何かの感情が宿る。 「れ、ん……くん……」

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