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攪拌6

これでよかった。 口内で呟いて、本を手に持った。 重いそれを抱えて、理科実験室に入る。生暖かい部屋を進み、準備室の前にたどり着く。片手で鍵を開け、体を使って押しあける。 ずっと付きまとわれることに、嫌気がさしていたはずだ。一緒にいるのが楽なのは、茂たちだと知っていたはずだ。 だから、何も。 むわっと襲う埃っぽさと古びた匂い。薄暗いその中で、微かな光を埃が反射していた。 一回咳払いをして、棚を探す。曇ったガラス扉をから、明らかに隙間のある棚を見つけた。ビーカーやら古い教科書やらが積まれた机に本を置く。 「なんでこんな本……」 目の前の出来事にひたすら集中して、文句を呟いてみる。 そもそも松田先生に頼まれなければ、誰か知らないが、その人が松田先生に頼まなければ、こんなことには。 首を振って、本を突っ込む。綺麗に並べて、扉を閉め、埃っぽい部屋にさよならをする。 かちゃりと音を鳴らして、ドアを開ける。鍵を閉めなければとポケットを探るが、その前に誰かの姿が視界の隅によぎる。 「……茂?」 「んー?おー!蓮!」 見覚えのある姿は確かに茂だった。 「どうした?」 「忘れもん!」 茂はがさがさと机の引き出しを漁り、あったー!と叫ぶ。その姿を見ると、どこか安心する。 「蓮はどったの?」 「松田先生に頼まれて本戻しに来た」 「おつかれさんじゃん」 指先で鍵をくるくる回し、茂に見せる。それを軽く投げてキャッチして、後ろのドアに鍵をかけた。 息を小さく吐いて、口角を上げた。

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