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攪拌7
「そういやーさー、さっきそこで姫野とすれ違ったぜ!なんか誰か探してるっぽかった!」
「そうか」
「ここいたん?蓮会った?」
「……まあ。会ったというか、最中に出くわしたというか」
誰かを探す。きっと先ほど帰ってしまった男を求めに行ったのだろう。
つくづく呆れたやつ。だがそこにもう俺は含まれることはない。
「それでそんな顔してんのかあ」
「誰だってそうだろ。出くわしたら」
「ふーん。追いかけないのか?」
「はぁ?追いかけるわけないだろ」
きょとんとした顔の茂を思わずどつきかける。
なぜ追わなければならない。俺から逃げたのは姫野だ。
茂を睨んでみれば、当の本人は全く悪気を見せない。何を考えているかわからない表情をしているだけだ。
「なぁんだそれ!自分に素直になれよ〜!」
「は!?」
「オレは蓮にも姫野にも幸せになって欲しいからよ!」
茂は輝く笑顔で親指を立てる。
曇りなく、迷いない。綺麗な笑顔に俺の心は揺さぶられる。
「じゃあオレ帰るから!」
「あっ、ちょっ……!」
伸ばした手は空を切る。あっという間に走り去る茂。その背を俺は見つめる。
「……馬鹿野郎……」
それは茂か?
それとも俺か?
小さく呟いた声に、脳内でそんな問いが湧いた。
そんなの……俺に決まってる。
自分の気持ちから逃げて、逃げて、
楽な道ばかり選んで、選んで。
ついには茂に諭されるまでになって。
恋愛って、楽しいばかりではない。寧ろ苦しいことの方が多い。
そんなことは、渡来の時から知っていたというのに。
華奢な体に。脆い心に。時折の素に。
惹かれていたくせに。
俺を選ばないことに。
苛立っていたくせに。
「くそっ……!」
俺は実験室から飛び出した。
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