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攪拌8
かちゃんと背後で鍵の落ちる音がする。そんなの気にしている余裕がなかった。
もつれそうな足を前に出す。
次は右足。左足。
走るという行為。慣れきった行為。
姫野はどこへ向かったろう。本当にさっきの男のところへ行ったのだろうか。中途半端なところで終わったと言っていたし、そうかもしれない。なら、校門へ向かえばいい。
流れるように思考する。その間にも足は止まらない。
馬鹿みたいだと思う。
今さらだとも思う。
逃げていた自分をかっこ悪いとも思う。
何を怯えていたのか。何を拒否していたのか。
きっと俺は同じになるのが嫌だったのだ。姫野の彼氏たちと。
そして渡来への想いを捨てるのを惜しんだのだ。変わらないものもあるのに。
「うわっ」
上履きが滑って転びかける。席に手をついて何とか耐えた。
まるで体育祭のパン食い競争だ。姫野にかっこ悪い姿を見せて、苛ついた俺。今考えればなんて餓鬼だったのか。
立ち上がって走り出す。玄関はあと少しだ。
姫野はこんな勝手でダサい俺を受け入れないかもしれない。先程だって俺の方から拒否して姫野を傷つけた。姫野のあの様子では、本当に諦めたようだった。
全部、俺の自分勝手のせいだ。
だからまた、俺が。
もつれかける足を無理やり動かし、玄関にたどり着く。上履きを放り出し、靴に履き替える。
外に飛び出すと、見つける。
姫野と。あの男と……
「姫野!」
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