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野獣とシンデレラ1

「姫野!」 叫んだ俺の声に、姫野は振り返る。 俺は姫野に走り寄って、目の前に立った。校門の真ん前で俺は姫野の両肩を掴む。姫野は小さな恐怖と困惑を湛えた瞳を向けてきた。 小さく息を吸う。 「姫野が好きだ」 姫野が目を見開く。声は出さない。 俺は姫野を見つめる。声は出さない。 その場が静まり、ただ沈黙だけが俺たちを包む。 秋晴れの太陽が柔らかな日差しを注ぎ、下校を促す鳥の声が空を舞う。一陣の風が姫野の髪の毛をさらった。 「……はっ、さむ」 沈黙を破ったのは姫野の隣にいる男。 俺はそいつに一瞥をくれる。すると男は開きかけていた口を閉じた。俺は姫野の腕を掴む。そして無理やりその腕を引いた。 「あっ、姫……!」 そいつが思わず声を出すと、姫野の腕に軽く力がこもる。それすら無視して俺は歩き出した。男がついてくる気配はない。 「れっ……れんくっ……」 「いいからついてこい」 「やっ、やだ!」 仄かに震える姫野の声を遮ると、強い拒絶の声が返ってきた。 恐怖、困惑、怯え。様々な負の感情が綯い交ぜになった声だ。 「とりあえず落ち着いて話せるところに行くぞ」 「いや!離して!蓮くん!」 姫野が叫ぶ中でも俺は足を止めない。姫野は懸命にもがいているが、俺の力には敵わない。 傷つけたのは俺。身勝手に告白したのも俺。 姫野は拒否する権利がある。 だがここで中途半端にやめてしまえば、俺はきっと前に進めない。それは姫野にも当てはまるはずだ。 「離さない」 「いや!もうやなんだもん!」 姫野の悲痛な声が、胸の奥深くに突き刺さる。

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