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野獣とシンデレラ6

「違う、知らない……違うの……ごめんなさい……」 「姫野」 「いや……ごめんなさい、もうしない……欲張らないから……」 両肩を掴んでも、声をかけても、姫野は耳を塞いだまま。しゃがみこんで、俯いて、小さく呟いている。 『愛』 それが姫野にとって、そこまで重いものだとは、思いもしなかった。 ここまで傷つけてしまうとは、思いもしなかった。 でもきっと、救えるのだって、俺しかいない。 それくらい自惚れてもいいだろ。 「姫野剛太!」 「……ひっ」 両肩を揺さぶって叫べば、姫野の体はおかしいくらいに体を強張らせる。恐る恐る耳から手を外し、顔を上げた。 俺は恐怖に満ちた瞳を見つめる。 「姫野が本当の愛を知らないって言うなら、俺が教えてやる。知るのが怖いって言うなら、俺が守ってやる」 姫野の瞳からはまだ涙がこぼれている。その唇は小さく震え、今にも嗚咽を漏らしそうだ。 「だから、自分の気持ちを受け入れろ。自分の気持ちに、素直になれ」 「れん……くん……」 「俺が絶対そばにいるから。離さないから」 俺はまた姫野を抱き寄せる。 床に尻をついて、脚の間で姫野を包むように抱きしめた。 「蓮くん……す、き……」 「ああ。俺も好き」 「蓮くん……蓮くん……」 姫野の体からは徐々に強張りが取れ、ついには俺の背に両腕を回してきた。俺の胸に収まり、姫野は泣く。声を出して、泣く。 それはまるで、ただただ寂しがる、小さな子供のようだった──

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