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野獣とシンデレラ7
「えへ、特等席」
姫野が床に座った俺の脚の間に入ってくる。俺の胸を背もたれがわりにして笑っていた。
しばらく泣いた姫野は、幾分吹っ切れたのか、ほぼいつも通りの様子だ。赤くなった目元は十分痛々しいが。
そして何故今の状態かと言うと、「ボクの話、聞いてくれる……?」という問いに頷いたら、姫野が自らこうしたのだ。
俺の両手をつかんで、自分の腰に回させている。
先程からまるで小さな子のような行動ばかりだ。だがそれすらも可愛いと感じるのだから、恋は盲目なのだろう。
「……無理しなくていいからな」
「ううん。ボクが聞いて欲しいの。蓮くんに」
姫野の態度も自分を守るためかと思えば、笑顔が俺に向けられる。どうやら杞憂みたいだ。
「……あのね、ボクの両親って、昔からずっと仲が悪かったんだ。たぶんボクが独り立ちしたら、離婚するだろうってくらい。ここまではたぶん……よくある話」
姫野は俺の胸に体重をかけてくる。姫野の髪の毛がさらりと揺れた。
まるで女みたいに滑らかで艶やかな髪の毛だ。揺れると同時にどこか甘い香りも立ち上る。
きちんとケアしているのだろう。
「でもボクの父と母は、外に家庭を作ってた。どっちもね。これはあんまりないことかなって」
「……」
「だから物心ついた頃には、広い家で独りぼっちで暮らしてた。ボクが暮らせるくらいのお金を置くだけで、父も母も帰ってこないの」
想像してみる。
家族で暮らすための家に、ずっと一人。リビングにも、キッチンにも、それぞれの部屋にも、誰もいない。自分以外いない。
俺の家みたいに、仁や杏や、父さんや母さんが、いない。テレビの音が、やけに響くだけの家。
ああ、なんて酷だろう。
俺は思わず姫野の腰に力をかけてしまう。姫野はそんな俺の手を取って、小さな手できゅっと握った。
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