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野獣とシンデレラ8

「でもね、たまに二人とも帰ってくることがあって。その時には決まって、暴力振るわれた。『お前さえいなければ』とか、『お前には生きてる価値ない』とか。色んなこと言われながら」 「……姫野」 姫野は小さく首を横に振る。 抑揚のないその声が心配だった。だがそれでも続けたいみたいだ。 俺は握られた手の指で、そっと姫野の指をなぞった。 「ボクだって、あんた達がいなければ、こんな人生歩む必要もなかったし、いじめられることもなかった。憂さ晴らしに使われることだって、なかった。……って何度も思った」 姫野が急に顔を上げる。その顔には笑顔が浮かんでいた。 作ったものではなかった。 穏やかで、安心したような、そんな笑顔。まるで話せることが嬉しいみたいだった。 「そうそう。松村には気づかれちゃったの。ボクが虐待されてるって」 「……茂に?」 「うん。父が誤って顔に傷つけた時があって、松村は目ざとく見つけてさ。それ違うやつに付けられただろ〜って言われちゃった」 姫野の顔から笑顔が消えていく。それに合わせて顔も下がっていった。 感情が安定していないみたいだ。 それほどにこの話は姫野にとって辛いもので、だからこそ俺に話したいのだろうか。そうだとしたら、不謹慎かもしれないが、嬉しい。 「ボク……忘れて、なかったことにしてって言った。だからだと思う。松村がボクとの関わりについて、嘘ついたの」 「……そっか」 「話逸れちゃった」 姫野はまたえへへと笑う。握った俺の手を弄りながら、口を開く。 「高校上がる頃にはね、両親が家に来ることはほぼなくなったんだ」

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