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野獣とシンデレラ9

姫野の高めの声は耳を撫でていく。俺の手で遊ぶ姫野の両手は、とても冷たい。 「このまま忘れられていくんだろうなって思ったけど、暴力振るわれないならよかった。だから高校始めのボクの生活は、割と安寧だったの。いじめからも逃れることができたしね」 ずっと伸ばしていた脚が辛くなってきた。曲げると自然に脚が閉じる。姫野の居場所が少し狭まった。 姫野は体育座りしていた脚をさらに縮こめた。姫野の膝の上に、姫野が俺の手を乗せる。 「でもすぐ崩れちゃった。……確か一年の五月くらいかな。強姦されたの。知らない男の人に」 あっさり言う姫野に俺は唇をひき結んだ。何も動作に表さないように気をつけた。 姫野は膝に乗った俺の手に、自分の手を重ねた。 「すごく怖かったし、嫌だったけど、その人がね、可愛いね、君が欲しいって言ってきた。なんかそれが、すごく……嬉しかったんだ」 姫野が瞬きをした。 「必要とされてる、ボクを愛してくれてる。そう思ったら、とても満たされている気がした」 その目元で何かが光った。 「だから……だから、今みたいなボクができちゃった」 姫野の顔をしっかり見ると、その瞳から静かに涙が落ちていた。姫野自身も気づいていないようだった。 それはただ静かに姫野の頬を伝っていく。 「本当はわかってたよ。彼氏たちの愛が都合のいいものだってことくらい。だってボクの『好き』だって、都合のいいものだったし」 姫野はただ前を見ていた。 ぴくりとも動かず、静かに涙して。まるで人形みたい。 重なった手からは何の熱も感情も伝わってこない。

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